管理社会VSシーフードカレー

いくつもの時代にわたる管理社会とシーフードカレーの戦いを描いたオムニバス映画です。

午前2時のシーブリーム

都内某所の、ある安ホテルに宿泊した。

 

一応都心に位置しているはずなんだけど、設備といい宿泊客といい、ここは東南アジアかと見紛うほどの「二線級ぽさ」で満ち溢れている。

 

隣室のいびきがクリアに伝わってくるベニヤ壁。何かの暗示にでもかけるつもりなのかと身構えてしまう、壁紙の過剰な花柄。刑務所みたいに陰気臭い共同浴場。ネズミの集会場にでもなっていそうな清潔さの共同トイレ。浅黒い肌の外国人ばかりがいるロビー。ペラペラのシャツでそのへんをうろついているフロント係のおっちゃん(はじめは客かと思っていた)。単なる案内であるはずなのに、やたら威圧的な明朝体

 

とはいえ、これくらいのレベルの「二線級ぽさ」なんて特に目を見張るほどのものではないし、一度寝泊まりすればすぐに慣れる。なんなら少し気に入っているくらいだ。

 

しかしながら、それでも見過ごすには惜しいモヤモヤスポットが、このホテルにはある。

知恵の輪だ。

 

待ち合わせの際の暇潰し用かなにかで置かれているのだろう。よくあるパターンだ。ただ、規模というか、このホテルの知恵の輪に対する腰の入れ方が少しおかしい。


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なぜコーナーが特設されている?

 

ひとつやふたつだけなら特段気に留めるほどではないが、わざわざご丁寧に難易度別に22個もの知恵の輪を用意し、コーナー専用イスまで拵えてある。宿泊客がここにじっくり腰を据えて、ウンウンと頭を捻らせながら輪を外す光景でも見たいのだろうか。そんな光景見たいのか? でも「5,000yen if you can do all」とか書いてあるし、ちゃんとチャレンジしてほしいのかな、このホテルのオーナーは。

 

でもせっかくだから、ちょっと遊んでみよう。あの専用イスは恥ずかしいから、少し離れたところにあるソファーで。

 


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なるほど、低難易度のやつを選んだからものの数分で解けたけど、輪を外した瞬間の「あっけなさ」は何だか不思議な脱力感を覚える。ぐらぐらと揺れて授業中にも食事中 にもとことん鬱陶しかった乳歯が、風呂上がりのふとした瞬間に静かに抜け落ちていくあの感覚みたいだ。「あっ、取れた・・・・・・」って。

 

途方もない努力にうんざりし、絶妙に力と意識が抜けてきたところで不意に達成される目的。人生なんてこんなもんかもしれない、とかいう手垢まみれの定型句は、言おうと思えば何にでも言えてしまう。けれども、つい言いたくなってしまうものだ。

 

人生なんてこんなもんかもしれない。

 

それにしても、幾何学的な形状の知恵の輪において、生物を模しているデザインには独特の魅力がある。これなんか、二匹の魚が互いに輪として繋がっていてカッコイイ。夢の原型イメージにこんなものがありそうだ。


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だれでもいいから、ユングに詳しいひと、カモン。

 

「お呼びかな?」

 

背後から急に声がして、おれは驚いた。

 

振り向くとそこには……

 

 

 

 

 

ということにはならなかった。

 

午前2時のロビーには誰もいない。

 

ところでこの魚型のパズルは『シーブリーム』というらしいけど、それを知ったところで、おれの夜中の咳は止まったりなんかしないのだ。

 

ごほごほ。