管理社会VSシーフードカレー

いくつもの時代にわたる管理社会とシーフードカレーの戦いを描いたオムニバス映画です。

コンビニ脇の国境線にて

工場での仕事を終えた帰り道、コンビニの脇で二人の中年男が口論していたのを見かけた。風貌からしてどちらもブルーカラー労働者のようだった。きっと同じ会社の同僚同士なのだろう。

二人の会話の内容を仔細に聞いたわけではなかったが、その言葉のやり取りは、なんだか口論というよりは説教に近かった。つまり、明確に、誰が見ても判別がつくくらいに「責める側」・「責められる側」としての国境線が引かれていた。

お前さあ、マジで仕事遅いよ、なあ。新人からも遅いって言われるってのは相当ヤバいよ。おい、分かってんの。新人にも言われてんだぞ。

責めていた方は、確かこんな風なことをまくし立てていたか。そして責められる方はといえば

なんだよ。うるせえな。なんだよ。

と、およそ反論とも呼べないような弱々しい抵抗の姿勢を示すばかりだった。おれの思い込みかもしれないが、声がいくらか震えていた。

責められる方は、きっと自分の仕事がとてつもなく遅いことを自覚していたのだろう。でもどれだけ自身の鈍重さを小突かれ、苛まれようとも、心の一番奥の最後の尊厳だけは傷つけたくなかったのか。でも認めるところは認めなくてはいけない。でもお前なんかにここまで言われる筋合いはない。でも弁解はできない。でも。でも。そんな声音に思えた。なんだよ。うるせえな。なんだよ。

ほんの数秒視野に入っただけの他人の胸中をここまで推し量るおれは一体なんなのだ。正直キモい。でもおれだって、前職の編プロライターのときには散々書くのが遅いと言われた。

執筆記事ごとの所要時間をExcelのシートに細やかに記録され、毎日、毎日、毎日、上司からフィードバックの名のもとにおれの遅筆を指摘された。別に遅筆を開き直るつもりはない。誇張ではなく、会社で一番書くのが遅かったのだから。事実だったのだから。どう解釈を歪めようとも遅いもんは遅い。

 

カワイ君は作業効率がとにかく悪いんだよ。

あの、どうすれば効率あがりますかね。

それは○○君か××君とかに教えてもらって。

 

きっとおれもあの会社で歳を重ねていたら、あっという間に幾多の新人に追い越され、口の悪い同僚とかにどこかの夜道で詰められていたのだと思う。なんだよ。うるせえな。なんだよ。

そして、いま働く工場。細分化に細分化を重ねた徹底的分業システムの元では、肉体的反復動作の最適化がそのまま作業効率の最適化に繋がる。幸い、そこでのおれは誰かの目につくほどトロくはない。かといって特段に仕事が速いわけでもない。居所としてはなんとなく落ち着いたけれど、やっぱり「ここではないどこか」を想って手を動かしている。ユートピアなんてどこにもないのは知っている。でも。

 

工場で働き始めたころ、工場長に、カワイ君はここに来る人間には見えないんだよね、と言われた。どのような含蓄があったのかは知らない。おれはそれに相当する言葉を、これまでに渡った全ての職場で投げかけられてきた。文脈はそれぞれ異なっていたが、きっとあらゆる意味でこの場に相応しくない人間だと思われていたのだろう。

 

おれはここにいるぞと、一体誰に言えばいい?

 

コンビニ脇の国境線を、労働ジプシーが越えてゆく。そうしてイヤホンで耳を塞いで、佐野元春と一緒に11月の夜風を歩く。

 

No Damage

No Damage

 

 

 

 

昨日、おれは隅田川ナポレオンフィッシュと泳いだ(https://youtu.be/MuOdlnOZJCs )