ピザまん冒険奇譚
誰が買ってきたのかはわからないが、冷蔵庫の奥にピザまんがひとつ入っていた。
その日はなんとなくピザまんが食べたいと思っていたし、ピザまんとしてもそろそろ食べられておかないと食品としての寿命を不本意なかたちで終えてしまうだろうから、この出会いはおれたちにとって好都合で運命的だった。
冷蔵庫からピザまんを取り出して手ごろなお皿にのせ、ほんの少しだけ表面を水で濡らし、ラップをかける。
電子レンジに入れて、スイッチをピッ。
ピザまんを温めて間に、何か1分程度で済むような些事(たとえばゴミ箱の袋を入れ換えるとか、冷蔵庫に貼り付けてあった用済みのメモを捨てるとか)を片づけようと思ったおれは、電子レンジの側を離れた。
おれは、午前7時53分の布団の中にいた。
しまった。迂闊にもおれがピザまんを入れた電子レンジは、夢の中にしかない電子レンジだったのだ。
どうしよう、とおれは思った。広大な沃野でもあり奇天烈な迷宮でもある夢の世界でもう一度あの電子レンジを見つけ出すとなると、いったいどれだけの月日を経なければならないのだろう。もしかしたら、一生、おれはあのピザまんを口にいれることができないのかもしれない。
そう思うとおれは、とても悔しくて、泣きたいような気持ちになってしまった。
なぜ人は、もう二度と手にすることができないかもしれない何かを、こうも簡単に自分でもわからない場所に匿してしまえるのだろう?
でももしかしたら、それを見つけ出すことこそが、ある意味では人間に与えられた天命なのかもしれないし、人生の主題と呼べるものなのかもしれない。
そう思ったおれは、あの電子レンジの中に入れたピザまんを取り戻すための準備を始めた。
水に食糧に磁石にマント、タバコと詩集は夢の地図