雪の峠でポン・カンナ・カムイが語った(ピザまん冒険奇譚④)
すべての胎児は詩人であった。なぜなら人は、地上に生まれる前にこそ、言葉の中で暮らしていたからだ。
地上の言葉は、まやかしである。そして、君たちがかつて詩人であったことを思い出すには、今や、ある場所へと足を運ぶしか方法が残されていない。
京成本線・堀切菖蒲園駅の近くにある「肉のハナマサ」へ行ってみるがいい。そこには、君たちが語るはずだった言葉たちが「業務用詩集」として冷凍庫に押し込められている。
せっかくだから、その「業務用詩集」からひとつの詩を取り出してみよう。解凍するには、冷蔵庫なら8時間、常温なら2時間半くらい置いておくといい。ただし、電子レンジでの解凍はあまり勧めない。中に入れたまま夢から醒めてしまうと、再び取り出すのにたいへんな苦労を要するからな。
◆◆◆
その瞬間を誰にも見せぬまま
恒久の眠りに沈んだたったひとりの貴女よ
夢枕に耳傾ければ
その胸の奥底、小石の波紋すら浮かばぬほどの静謐に満ち
鼓動はあらゆる妄執と煩いから解き放たれていた
貴女よ
いま貴女は
此の岸の虚妄を捨て去り
真実の智慧を得て
花と泪と記憶の舟で渡される
ただ静かに
ただ静かに
偽りなき安穏へと
25年目の4月26日にて、貴女に
◆◆◆
なんとまずい詩であろうか。「業務用詩集」の詩たちは、詩人であった頃の記憶の片鱗だけで書かれている。そんなものは、何も喚起せず、何も示唆しない。おまけに、酸化を防ぐためのph調整剤が添加されているおかげで、身体にも良くない。
しかし君は、泥の中でもがきながら詩を取り戻そうとしている人間の言葉を聞いた。一度聞いてしまった人間は、二度と「聞いたことのない人間」に戻れない。
悪く思ってくれるな。
そうやって少しずつ変わっていくのだ。地上は。