管理社会VSシーフードカレー

いくつもの時代にわたる管理社会とシーフードカレーの戦いを描いたオムニバス映画です。

地上の愚者、川底の賢者

現在間借りしているアパートから少し浅草方面に歩くと、そこには隅田川が横たわっていて、嬉しい出来事があったときや、やりきれない思いに駆られてしまった日の夜には、川沿いの鉄柵に身体をあずけて水面を眺めたりする。子供の頃もよく川に足を運んで、当時住んでいた団地の近所にのっぺりと流れていた荒川には、愛着と畏れを抱きながら色々な空想に耽っていた。

 

夜の川が好きだ。

 

四六時中何かを喋り続けている都会の中で、夜の川だけは唯一といってもいいくらいに寡黙な存在だと思っている。

夜の川は、決して自ら口を開かない。喧騒を吸い込み、灯をぼんやりと映し返すだけで、あとはじっと、巨大な宇宙生物の表皮みたいな水面をただ細やかに揺らしている。

冷たい鉄柵に、「く」の字のように上半身を乗り出してみる。深さも、水温も、水流の早さもわからない。そこにうごめく黒の内側には、ブラフマンのような、コスモを司る根理が静かに来訪者を待っているのだろうか。

目を閉じて深く息を吸い込み、そのまま川面に飛び込んでみた。水とひとつになって。

 

異形の賢者が、おれに触れた。