管理社会VSシーフードカレー

いくつもの時代にわたる管理社会とシーフードカレーの戦いを描いたオムニバス映画です。

この世界では誰かが振られると、大瀧詠一は死に、三浦大輔は打たれる

ある女の子をデートに誘おうとしたら、秒速でそっぽを向かれてしまった。最初の一回くらいは多少気に入らなくても付き合ってくれたっていいじゃないか。なんだよ。

仕方がないので、溜め息を吐きながら池袋のガールズバーで呑んだ。大丈夫、失恋までは少なくとも地球と木星ほどの距離はあったはずだ。ここで腐るな。

お店の子たちとの会話は、こちらが謝ってしまうくらいに気まずくて退屈だった。サービスのカラオケで歌った『夢で逢えたら』も、誰一人として知らなかった。大瀧詠一が二度死んだ。彼女らの興味は、おれの顔が誰某に似てるとか似てないとかそんなことくらいしかなかった。ちなみに言うまでもなく大瀧詠一ではない。

 

 あの、もう時間なんですけど、もし××さんがここで延長して私を指名してくれたら、もっと劇団の話とか聞きたいなって思うんですよ……ほら、私も役者目指してたから……あ、いえ、もちろん無理しなくてもいいんですけど、そうしてくれたらすごく嬉しいなって……あ、わかりました、いえ、全然大丈夫ですよ、またお願いしますね!

 

『SUPERワールドスタジアム'96』。

バーから3分も歩かない距離にあるゲーセンの地下で、その筐体は静かに液晶を光らせながら誰かを待っていた。

100円玉を入れて、チームを選択する。

おれが操作するのは横浜ベイスターズ

対戦相手は阪神タイガース

(セ・リーグに栄光あれ)

おれは、当時プロ4年目か5年目の三浦大輔を先発投手に据えた。

コンピューターの阪神は、おれの弱さとキモさとぎこちなさに同情なんかしない。

横浜の攻撃は10球でアウトを三つ埋め、阪神の攻撃は打者が一巡半した。

おれは三浦をマウンドから降ろさなかった。どれだけ痛打を浴び、スコアボードの数字が積み重なろうとも投げさせ続けた。そしてまた打たれる。

おれはゲームの中のデフォルメされた三浦大輔を、贖罪の山羊にした。高校時代、夢の中で三浦からピッチングを教わったのに。ストレートを投げる時は、人差し指と中指をセオリーよりもほんの少しだけ広く引っかけて、硬球ではなく鉄球をイメージしながらリリースすればいいと言ってくれたのに。

夢の世界を、バーチャルの世界で裏切る。

夢と現実は互いを包摂し合うけれど、バーチャルは夢も現実も一方的に取り込み、奪い去る。

夢は両腕から逃げ去り、現実はままならないけれど、バーチャルは思い通りを見せかける。

夢と現実のほうが、よっぽど優しい。

けど。

 

 

筐体を離れたおれは、一体どこに行けばよかったのだろう?

 

FLAPPER

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