管理社会VSシーフードカレー

いくつもの時代にわたる管理社会とシーフードカレーの戦いを描いたオムニバス映画です。

ノー・モア・ペイン・トゥナイト(辞表の正しい提出作法)

編プロで働いていた時期のこと。同期で同い年だったTと、帰りのエレベーターでこんな会話をしていた。最初に口を開いたのはTだった。

「三連休だな、明日から」

「うん」

「なんか予定あんの?」

「特には」

「おれ東京ドーム行く。横浜戦」

「いいじゃん」

「……なあ、おれたちってさ、生きてるうちにあと何回『明日から三連休だな』とか『やっと土日だな』とか言うんだろうな」

「さあ」

「週明けも週半ばも週末のことばっか考えてさ、で、いざ週末となるとこうやって惰性みたいに土日の予定の話するわけじゃんよ。でもさ、おれたちの土日に一体何があるっていうんだよ。巨人と横浜の試合を観戦したおれに一体何があるっていうんだよ」

「うん」

「菅野が投げて坂本が打ったところでおれはまた月曜にはここに来るし、おんなじように井納が投げて筒香が打ったところでお前はまた月曜にはここに来るんだよ。そして月曜からまた『実は巨根だと噂されている男性芸能人特集』みたいな記事を量産するんだよ」

「言いたいことはわかるけどさ、まあ落ち着こうよ」

「くだらねえ」

「……とりあえずさ、このあとバッティングセンターでも行かない?」

「そうだな」

 

王者の星が 俺を呼ぶ

俺はサムライ 呼ばれたからは

鉄の左腕の 折れるまで

熱い血潮の 燃えつきるまで

熱球ひとすじ 命をかけた

ジャイアンツの

ジャイアンツの旗のもと

 

エレベーターを降りたおれとTは、備品庫に立て掛けてあった鉄パイプをそれぞれ持ち出した。でも本当は鉄パイプなんて無かった。

すぐさまエレベーターを上り、オフィスへ戻る。でも本当はオフィスへなんて戻らなかった。

オフィスの一番奥のデスクでふんぞり返っていた社長。まずはTがいの一番に飛び込み、社長の顔面にフルスイングをぶちかました。でも本当は社長の顔面にフルスイングなんてぶちかまさなかった。

社長は芸人の陳腐な驚愕のように後方へ吹き飛んだ。でも本当は芸人の陳腐な驚愕のように後方へ吹き飛ばなかった。

続けておれが、顔面から多量の血を流し身体を痙攣させながら倒れている社長、その毛の薄くなった後頭部にスイカ割りが如く一撃を振り下ろした。でも本当は毛の薄くなった後頭部に一撃なんて振り下ろさなかった。

Tとおれは止まらない。うご、うご、ともがき呻きを上げる社長の五体を全て砕くまで、寸分の隙も与えずひたすらタコ殴りした。でも本当は寸分の隙も与えずひたすらタコ殴りになんてしなかった。

社長は肉塊へと生まれ変わった。でも本当は社長は肉塊へと生まれ変わりなんてしなかった。

眼前の光景を解釈できぬまま硬直している他の社員たちをよそに、Tとおれは社内のパソコンを片っ端から血塗られた鉄パイプで破壊した。でも本当はパソコンを片っ端から血塗られた鉄パイプで破壊なんてしなかった。

そうして最後に、社内に保管してあった原稿を全てひとまとめにし、Tのライターで燃やした。でも本当は社内に保管してあった原稿を全てひとまとめになんてしなかったし、Tのライターで燃やしなんてしなかった。

やがて会社はひとつの炎になった。でも本当は会社はひとつの炎になんてならなかった。

燃え盛るオフィスの隅で、後輩の女子のKさんが震えていた。でも本当は燃え盛るオフィスの隅で後輩の女子のKさんは震えてなんていなかった。

Tとおれは二人ともKさんのことが好きだった。

おれたちはKさんのもとへ歩み寄り、一緒に行こう、こんな会社止めようと言った。Kさんは目に涙を滲ませながら、最低、最低、あんたらなんか最低の屑、死ね、とおれたちを罵った。

 

こうしておれたちは円満に退職した。おれは東京の端の冷凍ピザ工場に流れ着き、Tはどこで何をしているかは分からない。

 

くじけぬ翼 かけのぼる

灰になっても とぶ火の鳥

野球地獄で 男をみがけ

ジャイアンツの

ジャイアンツの旗のもと

ジャイアンツの

ジャイアンツの旗のもと

 

 

(参考文献:https://youtu.be/uAC86cxq8-8 )